床屋の話 3

床屋の話 3


 

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以前、RさんはY君にこう言ったことがある。

「ここ広いし、Y君、二階に住んだら?」

その時、Y君はこう言っていた。

「いやー、自分が住むとオーナーに家賃とられるから嫌です。ひとまず二階は手を付けない方向で行きましょう」

 

それが唐突に二階にVIPルームを作ると言い出したのだから、Rさんは驚いた。Y君は凝り性で、以前の店舗では壁一面のスクリーンとプロジェクターを設置し、音楽と映像をサービスしながら散髪するエリアを作ったりしたこともある。だが、Rさんはピンと来なかった。

(床屋でVIPルーム……?)

 

Y君曰く、一部屋に一人のお客さんのみで、ゆっくりと好みの音楽を聴いてもらいながら散髪や毛染めをサービスする部屋が欲しいという。

 

「イメージは出来ているんだ!」

Y君は簡単なスケッチを取り出してRさんに見せた。二十畳と十五畳の部屋をそれぞれこのデザインにしてほしいという。

(うわあ……いかにも風俗店っぽい感じ……完全にY君の好みだな)

 

ギラギラと趣味が悪い感じではあったが、二階の工事はRさんにとって簡単なものだった。間仕切りの壁を一部破り、その中にあるユニットバス用、あるいはシステムキッチン用の配管から配管を取り出して、散髪用の機械に接続用の口を作るだけで済みそうだ。

(ただ、あの部屋が気になる……)

Rさんが作業することになるのは、初日に例の男を見た十五畳の部屋である。

(一階にいる時も、足音はずっと聞こえてたし……)

 

しかし今日が終われば、大工が内装工事を終了するまでは、Rさんの仕事は無い。

(あとは最後の仕上げの二日間だけで、この怪しい建物とオサラバできる)

 

Rさんは明るい内に逃げ出そうと、急いでその日の作業を終わらせた。

 

明日はいよいよ機械の接続へ行くという夜のことだ。大工のMさんからRさんに電話が入った。

「お疲れ。明日、来るよな?」

 

用件は明日工事に入る事の確認だが、Mさんはそんなに几帳面な男ではない。

(普段ならいつも確認の連絡なんてよこさないのに……)

 

挨拶程度の仕事の話の後に、Mさんは切り出した。

「例のVIPルームなんだけど、元のイメージの絵を覚えてるか?」

Rさんは、不思議なことを確認するものだなぁと思いつつ頷いた。

「ああ、勿論覚えてるよ」

するとMさんが続ける。

「Y君の奴……頭おかしくなったんじゃないかな?……まぁ、お前も明日来たら分かると思うけど……」

それだけ言うと、Mさんは電話を切った。

 

翌朝、現場に付いたRさんはY君と顔を合わせた。

(Y君の頭がおかしくなったって?普段と変わらないじゃないか……)

 

Y君は上機嫌にRさんにこう話した。

「ねぇねぇ!二階のVIPルーム見てよ!!かなりいい感じに出来たから」

「よし、じゃあ二階の配管の接続から始めるか」

Rさんは道具と材料を持って二階に上がる。

 

そして十五畳の洋間に入って愕然とした。

当初のイメージと全然違う……!!しかも、この光景……何処かで見た事があるぞ……)

 

壁の一面にカウンターを伸ばし、その真ん中に洗髪台を埋め込んでいる。カウンターの上は天井に間接照明用の箱が取り付けられ、大きな透かし彫りの欄間彫刻がはめ込まれていた。左右にも同じように間接照明用の縦長の箱と、透かし彫りの欄間彫刻が取り付けられ、そのコの字に彫刻に囲まれた真ん中に、金縁の趣味が悪い大きな鏡が取り付けられている。床は白と黒のプラスチックタイルが菱形のマークを描くようにして貼られていた。

(これ……どこで見たんだっけ……)

 

既視感の正体に悩んでいると、Y君がRさんの後ろに来ていた。

「いい感じになったでしょ?ちょっとデザイン変えたんだ」

 

黙っているRさんに、Y君は続ける。

「後ね、今、壁紙白じゃない?腰から下は半分だけ黒にするんだ!」

 

その時に、Rさんは大工のMさんが言った“Y君の頭がおかしくなった”という言葉の意味に気がついた。

(そうか!これはまるで葬式の祭壇だ……!!)

 

Rさんは既視感の正体に愕然とした。

(おまけに鏡の正面の散髪椅子に腰掛けると、自分の顔があの趣味の悪い鏡に映る……まるで遺影の如く……)

 

Rさんはもう何も言わなかった。この十五畳の部屋は、最初にあの男を見た部屋である。

(Y君がおかしくなったのではないだろう。あの初老の男が、Y君に、自分のための祭壇を作らせたんだ……)

 

こうして、二十畳の部屋は当初のデザインのまま完成したが、十五畳の部屋は葬式会場のようにデザインを変更して仕上がった。

 

数ヶ月経ってから聞いた話だが、現場で不思議な体験をしたのはRさんだけでは無かったという。Mさんのところの若い大工も、Rさんと同じく足音を聞き、二階にて人影を何度も目撃したらしい。接続工事が終わり若い大工が細かい部分の調節をしている姿を写真に撮ってみたところ、案の定鏡の中に小さくあの男が写っていたそうだ。

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Rさんは語る。

「Y君の店は今も繁盛していますよ。店舗には一人くらい(霊が)居たほうが客を呼んでくれると言うのもまんざら嘘では無いですから。不思議には思いません」

 

立派な祭壇が出来たことにより、初老の男の霊が満足し、その礼に店へと客を呼び寄せているのかもしれない。

 

 


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カンレン

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