床屋の話 1

床屋の話 1

これは愛知県在住のRさんの体験談である。

 

Rさんは年齢と共に怪異に遭遇する機会は減ったというが、十年前にこんな体験をしている。

今回、取材中にRさん自ら見取り図を描いてくれたので、そちらを合わせて掲載する。見取り図と照らしながら読み進めてもらうと、より楽しめると思う。

 

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Rさんは設備工事の仕事をしており、2010年の夏前に理容関係をしているY君から招集が掛かった。Y君は某理容室チェーンのマネージャー及び総括のポジションに就いている人物で、2005年頃に、Y君が以前の勤め先の新店を作る際に知り合った。きっかけは建築土木の請負をしていたH君の紹介だ。

Y君は店舗展開の度に凝った店を作りたがる人物で、人間的にも面白く、Rさんを気に入ってくれた様だった。

 

これまでにも既存店の細かいメンテナンスや修理関係で呼び出される事はあったが、今回は召集である。Rさん以外にもH君や大工、電気工事店も呼ばれていた。すべてH君からの紹介で、Y君のお気に入りの業者ばかりである。

(ああ、きっと新店舗の展開をするんだろうな)

とピンと来た。

 

数日後、名古屋市港区のある空き家になっている貸し店舗に十九時に集合することになった。

 

当日、Rさんは集合時刻のに十分ほど前に店舗に到着した。

(お、まだ誰も来てないか)

 

名古屋時間という言葉があるほどで、名古屋人は人によっては時間にルーズである。そのためRさんも集合が遅くなるだろうことは織り込み済みで、あまり気にせずに待つことにした。

 

これから改装して新店となる空き店舗は二階建てで、二階は住居スペースになっているようだった。一階だけでも理容店に使うには広すぎる印象があった。見ると既にシャッターが開けられ、鍵も開いているようだ。

(もしかしたら早めに付いたH君やY君は近くの喫茶店にでも行ったかな)

 

しばらく待っていれば来るだろうと思い、Rさんは建物に入ることにした。

照明のスイッチを探して屋内の電灯をつける。電気は来ているようで、店舗の内部が明るくなった。前の使用者が残していった物が雑然と残っており、それらの物から判断するに、どうやら以前は中部地区でシェアNO.1の新聞販売店だったようだ。

そして店舗の造りから、そのさらに前がコンビニだったと言う事も判ずることが出来た。奥には冷蔵のショーケースが並び、バックヤードにはプレハブの冷蔵庫まで残っていたからだ。プレハブ冷蔵庫とは、ドラマなど港の倉庫等のシーンで刑事などが犯人に閉じ込められたりする、人が入れる大きさの冷蔵庫である。ここにあったものは、幅、奥行き、高さがそれぞれ2メートルほどの物だった。

 

入って正面の棚の上奥には、元々はパンやお菓子等が並べられていたのであろう棚があった。白のアクリル板に同じくアクリルで作られた文字を貼って作った看板には、上から白のビニールテープが貼られていて、元の店舗名がうっすらと見えた。

(聞いた事が無い店名だなぁ。個人経営の小さなコンビニだったのかな……)

二階に住居があるのはその時代の名残だろうとRさんは思った。その時だ。

 

コツコツコツ……

 

ふいに二階から足音がした。

(あれ?誰かいるのか……駐車場も空なのに……?)

 

バックヤードへ続く扉を開けると、さらにもう一つ扉がある。そこから階段に直接入れる玄関があることに気が付いた。

(なんだ、こっちからも入れるんだ!ってことは既に誰か来てて、二階にいるんだな?)

 

Rさんは階段の照明を付けて「こんばんはー」と二階に向け声をかけながら階段を上った。上がった先、二階は思った通り、住居だった。が、照明が付いていない。

(誰か来てるなら電気がついていないとおかしい……)

 

Rさんは訝しく思い、電気をつけ、奥に向かって廊下を歩き始めた。

「おーい!誰かいるのか?」

 

入って右手に洗面所と風呂があり、左手は物置状態の和室がある。さらにその奥に進むと、左手に八畳のキッチンがあり、右手に十五畳の洋間があった。突き当たりは二十畳ほどの洋間だ。

(やっぱり、誰も居ないか……)

 

一通り確認したRさんが、再び階段を降りて下に戻ろうとした時の事だ。十五畳の洋間から視線を感じた。廊下から開けっ放しのドアを覗き込んでみる。

するとそこには放置されて柱に立てかけられているベッドとベッドマットがあり、その横に、こちらをじっと見ている初老の男が立っていた。

(……?!あ、足音の原因は……この人か……)

 

Rさんが目の端で捉えたのは、白いシャツを着て、白髪が多く混じった髪をオールバックにした、やせ形の男だった。

(この世の者じゃない……)

 

気持ちが悪くなったRさんは、そのまま廊下の電気を消すと足早に階段を下りた。

 

Rさんが下に降りたところで、駐車場に車がやってきた。程なくメンツが揃い、一階で打ち合わせが始まった。

 

コツコツコツ……

 

打ち合わせ中も時折聞こえる二階の足音が気になって仕方ない。だが一人の大工を除き、誰も気がついていないようだ。大工はたまに怪訝そうに天井を見上げていたが、それらしいことを口にはしなかった。

(こんな現場で仕事するのは、気が重いな……)

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そして半月後に現場が始まり、Rさんはさらに不可解な体験をすることになる。

 



 

 


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カンレン

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