だいしゅきホールドって遺伝子レベルでやってると思うというはなし

だいしゅきホールドって遺伝子レベルでやってると思うというはなし

こんにちは春画―ルです。

 

わたしはほぼ趣味で毎日毎日SNSで春画の投稿をしているのだが、ときどきコメントでこのような内容をいただく。

 

「だいしゅきホールドって昔からあったんですね!」

と。

 

最初に言われるまで『だいしゅきホールド』が、どのようなものか知らなかった。『だいしゅきホールド』とはGoogle先生によると

正面から相手に抱きつき自分の四肢を相手の身体に絡めつけること

とある。

文字の通り、相手のことが愛おしくて大好きだからこそ「極限まで密着したい」と強く思い、その結果脳みそで考えてるより先に身体が自然と相手を強く抱きしめてしまうのだろう。その強い愛もひっくるめたのが『だいしゅきホールド。』

 

春画では『両足じめ』と呼ばれた  だいしゅきホールド

 

1684-1688年 菱川師宣《絵本今様枕屛風(えほんいまようまくらびょうぶ)》

 

さて、冒頭でも書いたように日本でも遥か遥か昔よりこの『だいしゅきホールド』の表現が存在していた。

菱川師宣(ひしかわ もろのぶ)という絵師をご存知だろうか。そう、歴史の教科書に掲載されていた『見返り美人図』を描いた絵師だ。『見返り美人図』は肉筆画なのだが、菱川師宣は浮世絵の創始者と言われている。その彼が描いた春画の中にもこの『だいしゅきホールド』が描かれているのだ。

上の絵の《絵本今様枕屛風(えほんいまようまくらびょうぶ)》を御覧いただきたい。描かれている女性の表情を見ると、男性を四肢でホールドしながらウットリとした表情をしている。

 

そして菱川師宣の描いた《恋のむつごと四十八手》という艶本の中で、この『だいしゅきホールド』『両足じめ』という体位の名前で説明されている。

その説明内容はこのように書かれている。

女こゝろよがりては、びくわい(美快)の声をいだすといへば、さぞ/\かくこそあらめ。

つまり、女性が心よりよがり、美快の声を出す時は、『両足じめ』の体位を行うということだろう。

 

1687年 菱川師宣《絵本好色花の盃(えほんこうしょくはなのさかずき)》

 

菱川師宣はこの『両足じめ』のポーズが気に入っていたのか、様々資料を調べてみるとけっこうな確率で描かれていることがわかる。上の《絵本好色花の盃(えほんこうしょくはなのさかずき)》の絵も『両足じめ』だ。

しかしそれよりも座敷のよこで風を送っている女中さんの方が気になる。見られたくないからか、それとも女中さん自信が行為を見たくないからか目隠しをしている。しかも襖の隙間から違う女性がものすごい表情で覗いていて、この状況にじわじわくる作品だ。

 

様々な絵師が描いた『だいしゅきホールド』

 

1784年 鳥居清長《色道十二番(しきどうじゅうにばん)》

 

「あーん、もう好き好き大好き―!!!!」の状態にこの『だいしゅきホールド』がセットのように登場してくるわけなのだが、その「あーん!好き!」の場面のとき、絵の中のふたりはどのような状態になっているのだろうか。

 

鳥居清長《色道十二番(しきどうじゅうにばん)》では揚帽子を被った奥女中と若衆が激しく抱きっている。この奥女中は年に二回しかない宿下り中で恋人に久しぶりに会えたようだ。屋敷で勤める奥女中は気軽に休暇をもらったり、出掛けたりすることはできなかった。外に出られるときといえば、年に二回の宿下りのときや、屋敷のご主人の代参のときである。

奥女中は「いつまでもこうしていたい。あなたに会うことばっかりが楽しみだ」と言っており、やっとやっとやっと大好きな彼に会えたことがわかる。

 

1834年 柳川重信二代《艶画四季時計(えんがしきどけい)》

 

こちらは床に始末紙(さあ、何を拭いたのでしょうか)が散乱しており、ちょうど最中であることがわかる。

オトコ「大抵のおんなは淫水を出しても心から気がイくのは遅いもんだから、

無闇やたらにイくおんなは春画の中だけだと思っていたが、そうでもない。

おめえは宵から何回イったんだよ。

そんなにイくと体力がなくなって、顎で蠅を追うようになるよ。」

彼女は「男根が中に入るか入らないかのうちにもう気持ち良くなって宵からちょうど八回イってしまった」と言っている。

 

女性が濡れていてもそれですぐにオルガズムに達する訳ではないし、男性よりもオルガズムに達するのが遅いというのは渓斎英泉の書いた性典物にも書かれていることである。画中で女性は「骨と皮になるくらい気をやりたい」と書いてあるが、実際のところ江戸期の女性たちは心からセックスを楽しんでいたのであろうか。オルガズムに達する女性はいたのであろうか。

 

文化文明の発達のなかで変わらずに存在した『だいしゅきホールド』

 

絵師不詳《小柴垣草子(こしばがきぞうし)》江戸後期の模写

 

浮世絵の創始者とも言われた菱川師宣がバリバリに『だいしゅきホールド』を描きまくってたのならば、江戸より前の時代から『だいしゅきホールド』があったのでは?と思ったので少し調べてみた。

 

《小柴垣草子》(1299年)は現時点で発見された最古の男女交合図の作品だと言われている。この肉筆春画は洛西嵯峨の野々宮で実際に起きた皇室スキャンダルに発想を得ているようだ。話の内容は皇女の済子(なりこ)が警護についたイケメンの武将である平致光(たいらのむねみつ)誘惑し、密通するという内容だ。

 

絵師不詳《小柴垣草子(こしばがきぞうし)》江戸後期の模写

 

絵巻物となっているこの作品には様々な交わりが描かれている。「春画では、あまり全裸の交わりは描かれない。たいていの場合は着物を来ている。」とよく言われるのだが、鎌倉時代に描かれたこの作品では、度々すっぽんぽんで男女が交わり狂う場面が描かれており、かなり見ごたえがある。

 

絵師不詳《袋法師絵詞(ふくろほうしえことば)》江戸時代中期模写

 

同じく鎌倉時代に描かれた《袋法師絵詞》にも《小柴垣草子(こしばがきぞうし)》と同じような体位が描かれていた。もしかしたらあまり体位に種類がなかったから、この体位ばかり描かれていたのでは?と思い他の鎌倉時代の交わりも確認したのだが「相舐め(シックスナインのこと)」や騎乗位など様々な体位が描かれていたので、そういう訳ではないようだ。

 

絵師不詳《袋法師絵詞(ふくろほうしえことば)》江戸時代中期模写

 

そしてこの『だいしゅきホールド』が描かれているときの男女はいつでもセックスを楽しんでいるように見えるのだ。いつだってその瞬間は「だいしゅき」が溢れているのだ。

現存する最古の春画は鎌倉時代のものであるのだが、春画自体は平安時代にも描かれている。きっと平安時代にも確実に『だいしゅきホールド』が描かれていると考えている。あんなに恋の和歌に溢れまくった平安時代に『だいしゅきホールド』が存在しなかったなんて考えられない。

 

明治20年代 絵師不詳

 

今回の『だいしゅきホールド』の特集はいかがだっただろうか。ひとつ言えるのは、探せば出てくる出てくる『だいしゅきホールド』(笑) 

そして今この瞬間にも世界中のどこかのカップルたちが実際に『だいしゅきホールド』で愛し合っているだろう。まるでひとつの生命体になるかのように。

 

蔦のように絡み合い蕾が紅く色づき花のように咲き乱れる恋人たちの『だいしゅきホールド』はこれからもこの形のまま人々の営みの中に存在し続けるだろうね。

(『だいしゅきホールド』の命名者の方に感謝申し上げます)

 

参考文献

車浮世『春画入門』

白倉敬彦『春画の色恋』

 

 


この記事を書いてくれた春画―ルさんのTwitterはこちら

@tuyashun

7+

この人へお仕事の依頼はこちら → リクエスト

カンレン

  • t