
これは、しげしさんという男性が幼い頃に体験した話である。
ぜひ、『赤い女』の前編()を読んでからご覧いただきたい。
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全身が血に染まった赤い女は、ワンピースのような服を纏っている。
(とにかく二人を守らなくちゃ……!)
しげしさんは声を荒げて叫んだ。
「いいから今は帰れ!!お前ら死ぬぞ!!」
友人二人が振り返ったかと思うと、慌てて外に出て行った。
あとで分かったことだが、このときしげしさんの口から出ていたのは大人の男性の低い声だったという。大人に見つかったと思った二人は走って逃げたが、しげしさんは自分の口からそんな声が出たことに驚いた。
一目散に逃げた二人の背中を見てから、しげしさんはその女性に近寄っていった。
(全然、怖くはないな……)
しげしさんは、祖母の家で怖い体験をいくつかしているため、この世のものではない存在を見ても震えて動けなくなるということはなかった。
その時、なぜかしげしさんは、女に向かってこう言ったという。
「苦しかったね、ここで死んだんだ」
言おうと意識して言葉にしたのではなく、自分の身体を使って誰かが言葉を紡いだという感覚だった。すんなりと言葉が出てきたことに驚いた。
すると、その女はしげしさんに近寄り、ぴたっとくっつくようにして触れたという。その瞬間、しげしさんの目の前には男に陵辱された女の姿が生々しく浮かび上がり、その次には惨殺された女の姿が見えた。鋸のようなものでギリ……ギリ……と切られる凄惨な光景の後、彼女が床に埋められているところまでを視たそうだ。
そして、女はふわりと暖かく、はじけるように消えてしまった。おそらく、つらかったね、と慰めるような言葉を聞いたことで、女の霊の気持ちも慰撫されたのであろう。
しげしさんはあまりの光景に、気付けば膝をついていた。
女の霊は消えたものの、この場所には無数の霊体がいるということがしげしさんには分かった。
(これを全部どうにかするのは、絶対自分には無理だ……)
そう思ったしげしさんは、そのままその家を後にしたという。
翌朝のことだ。
昨夜、しげしさんの声に反応して家から転げ出るように出て行った二人は、しげしさんに向かってこう言った。
「まるで別人みたいな声やったで。太くて低い大人の声だったから、しげしの声じゃないと思ってびっくりした」
(そうなんや、どうしてやろ……)
そして、逃げ帰った友人二人は相変わらず、黒い靄のようなものに取り囲まれているのが気にかかった。
黒い靄に囲まれた友人らは、昨夜来なかった友人に向かってこう言った。
「どうしてお前らは来なかったんよ」
すると、来なかった友人たちは口を揃えてこう言った。
「いや行こうと思ってたんだけど……何でかわからないけど、身体が動かなかったんだよ」
口裏合わせたみたいにして数人がそう言った。
(おかしい、全員そんなことあるはずない)
そう思ったしげしさんが、他にも来なかった友人に、それぞれ一人になった時に同じことを聞いた。
「え?ああ、昨日ね、行こうと思ってたんだけど……なんか身体が思うように動かなくて、行けなかったんよ」
(また同じ返事だ……行こうと思っていたのに身体が動かないなんて、やっぱりおかしい)
まるで示し合わせたような友人の返答は、自分を騙しているのではないかと、しげしさんはしばらく腑に落ちなかったという。
あの日ともに廃墟を訪れた二人の友人から黒いオーラが消えることはなかった。そして友人は引っ越しをきっかけに、それぞれ別の地域へ転校していった。
すると一年程した頃に、それぞれの母親から、しげしさんの母親を通して連絡があった。そして
「今まであの子と遊んでくれてありがとう」
と告げられた。
(どういうことや……?)
直接、友人の母親から聞くことはなかったが、しげしさんは母親から、その子らが亡くなったことを告げられたという。それぞれに、違う事故が原因で、亡くなったそうだ。
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しげしさんは語る。
「おそらく二人とも憑かれやすい人間やったんやと思います。あの日家に入ったことで、何か良くないものに憑かれてしまったのかと」
その後、その家は市による道路拡張工事により取り壊され、今は道路になっているそうだ。
しげしさんは、祖母が亡くなる前にこう言っていたのをよく覚えているという。
「あんたはちゃんとまもってるから、わたしが」
その声が、ずっと耳に残っているそうだ。それから、霊的なものが時折見えるようになったり、人のオーラのようなものが見えるようになったという。
しげしさんの体験は他にもあるので、また紹介したい。
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