赤い女と黒い靄(前編)

赤い女と黒い靄(前編)

これは、しげしさんという五十代の男性が、十歳の頃に体験した話だ。

 

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しげしさんは三重県伊勢市朝熊に住んでおり、その頃の朝熊は国道も通っておらず、コンビニもない集落だったという。

 

「なあ、肝試し行こうぜ!」

学校の友人が肝試しをやろうと誘ってきたのがきっかけだった。しげしさんは行きたくなかったが、周りの声に押されてしまい、二十時に集まることになった。現在もそうであろうが、いくら近場とはいえ、子どもだけで家から抜け出せるのは二十時頃が限度だったという。

 

「あそこがちょうどいいんじゃないか、今誰も住んでないし」

友人の一人が提案した場所は、しげしさんが当時世話になっていた親戚の家の近くだった。その家は十年ほど空き家になったままだった。前の住人が住んでいた時からいわくのある家で、”住んでいた人間が、他人に怪我を負わせた”という話も、幼いしげしさんの耳に入っていた。

最後にその家に住んでいたのは三十歳くらいの独身男性で、精神病院に入院することになったという。

元々小さな集落なので、集落内で別居していた男性の家族も居た堪れなくなったのだろう、やがて家族全員出て行ったそうだ。最後の住人が去ってから十年くらい経ってはいたが、まだ廃墟というほど荒れてはいなかった。

 

そのほかにも、その家のすぐ近くに住んでいたしげしさんは、夜遅い時間に変な音が聴こえて、親戚が玄関から慌ててその様子を行ったのを二階から見ていたことがあった。

(なんだろう……?)

 

学校に行くと、友人がこんな風に話していた。

「あの家に勝手に入った村の外の人が、突然発狂して近くの住民に怪我を負わせたんだって」

(やっぱりあの家、なんかあるんだ……)

 

何人か、空き家となったその家を買おうとその家を訪れたことがあるが、近所の人が「あまりいい家じゃないよ」「あそこは入る度になにかあるから」「やめたほうがいい」「何か変なものが出るらしいよ」と口々に言い、結局誰も買い手がつかなかったそうだ。

 

その日の放課後、それぞれ家に戻り、夕食を終えて二十時が近づいた頃にしげしさんは外に出た。指定された家はしげしさんの家のすぐ近くであったので歩いて行くと、そこにいたのは友人AとBのたった二人だけだった。

 

「みんなは?」

しげしさんが尋ねると、Aがこういった。

「まだ来てねーよ、びびってんのかな」

 

二十時ならばまだ外を出歩いてもそう咎められる時間ではない。

(あんなに行こう行こうって言ってた奴ら、全然来ないじゃないか)

 

話をしていた友人は八人ほどいたが、結局、他には誰も来なかった。

「いくじなし!もう行こうぜ」

 

友人二人を追いかけるようにしてしげしさんも敷地に入ったが、途中から、ある一点しか視界に入らなかった。

 

(ここの家、……あかんわ)

しげしさんは、特に二階から異様な雰囲気を感じ取ったという。家には鍵がかかっていなかった。家に入って行こうとする背中を見て、しげしさんは瞬いた。

(……あれ?)

二人の背中がもやもやと、黒く漂うものに覆われて見えにくくなっていた。

(なんかいやな感じやな……)

 

しげしさんは、時折、人を見ると、その人が背負っているものが見えることがあるという。いいものを背負っている人は暗闇でも光って見える。お地蔵さんが守っているようなふんわりとした雰囲気が漂っている人もいれば、うつ病などを患っている人はグレーの空気に包まれているように見えるそうだ。

 

(あとで、教えてあげよ……)

どうせ言っても友人たちは信じないだろうと思いながら、AとBが先導するようにして中に入っていくのを追いかけた。

入った瞬間から異様な気配を感じてはいたが、やがて廊下沿いの階段の前あたりに進んでいった友人二人に向かって、しげしさんは叫んだ。

「帰れ!!」

 

だが、友人は振り返らない。

声が届いていないようだ。

 

次の瞬間、しげしさんの目の前にいたのは、全身が血に染まった赤い女だった。

 

 


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カンレン

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