挨拶をしてくれない先輩の話

挨拶をしてくれない先輩の話

これは現在三十代の女性、山城さんの体験談である。

 

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山城さんは大学時代、大阪のテーマパークに五年ほど勤めていた。

大学を休学した頃に丁度アルバイトの募集があり、面接に合格して入社したそうだ。

 

アルバイト先には、先輩にあたる前田さんという女性がいた。

 

「前田さんの占い、すっごい当たるねん」

 

仕事先ではみんなが口々にそのように言っていた。

 

(そんな子がいるんや、仲良くなりたいなぁ)

 

そう思った山城さんは積極的に前田さんに声を掛けにいこうとしたが、

前田さんはいつもそっけない対応だったという。

 

「あ、前田さん!おはようございまーす」

 

声を掛けても、「おはようございます」と小さな返事がぼそっと返ってくるだけで、

しかも視線はいつも違う方向に向けられていた。

 

(人見知りなんかなぁ)

 

当時山城さんは勤務態度があまり良くはなく、平気で遅刻をし、無断欠勤こそないものの

休みがちだった。

望んで採用されたものの、楽しく働いていたとはいえず、勤務時間の他には危うい遊びを

していたそうだ。

そういう理由から避けられているのかもしれないとも思ったという。

 

ある日のことだ。

朝礼でマネージャーが前田さんにこんなことを言った。

 

「じゃあ今日も一日よろしくお願いします。的場さんの占い聴いとこか~。

な、今居る面子でヤバイ人っておるん?」

 

そう問われた前田さんはすぐに答えた。

 

「山城さんです」

 

(ええっ!?)

 

顔を背けながら指された山城さんは動揺した。

 

(えっ、ヤバイって何がやばいんやろ……!?)

 

具体的にそこで話を聞くことは出来ず、一日の業務が始まった。

 

(私は前田さんのこと好きやのに、そんな風に言われたら寂しいなぁ……)

 

そのすぐ後のことだ。

山城さんは勤務態度の悪さをマネージャーに指摘された。

 

「こないに頻繁に休まれたり遅刻したりすると困るんやけど、

このまま辞めるか続けるのかはっきりしてほしい」

 

「せやけどな、もうちょっと山城さん、がんばったらええよ。夜遊びとかやめて」

 

そう言われ、山城さんはマネージャーやさらに上の人物と何度も面談を重ね、

少しずつ不規則な生活を正していったという。

 

それから半年ほどたったとき、山城さんは出勤中に初めて前田さんから声をかけられた。

 

「今日の帰り、一緒に帰らへん?」

 

(うわっ、初めて声かけてもらった!嬉しい!!)

 

その日は山城さんの方が少し早めに上がるシフトになっていた。

 

「少し待たせると思うんやけど、よかったら近くのカフェでお話しよ」

 

「はい!待ってます!!」

 

一足先に仕事を終えた山城さんが近くの喫茶店で待っていると、

少しずれてシフトからあがった前田さんがやってきた。

 

前田さんは向かいの椅子を引いて座るなり申し訳なさそうに口を開いた。

 

「山城さん、本当にごめんね。気付いてたと思うんやけど、避けてたんよ」

 

「全然気にしてないですよ」

 

前田さんはどこか切羽詰まっているように見える。

 

「多分噂で聴いとると思うけど、私ね、人の過去とか未来がその人の頭の上を流れて見えるんよ」

 

(あ、やっぱり本当やったんや)

 

前田さんは続ける。

 

「今まで占った中で一人だけな、何にも見えへん人がおって」

 

「その人な、……そのあとしばらくして殺されたんよ。

ほんで分かったんや、何にも見えへん人は、近い将来誰かに殺されたりする人なんやって」

 

そこで前田さんはポケットから筆記用具を取り出して、何かを描き始めた。

 

「私にはその人な、こないな風に見えててん」

 

絵を見て山城さんは息を呑んだ。

 

首から上を真っ黒に塗りつぶされた人間の絵だったのだ。

 

「私にはその状態が恐ろしすぎて喋られへんかった。だって、目がないんやもん」

 

「多分やけど……山城さんの中で、切り替えたやろ。今は目、見えとんの。

せやから見えてる今話すけど、お願いやからそっちにはいかんといて」

 

当時山城さんがしていた危うい遊びというのは、ホストのようなものだった。

貢ぐという行為まではいかないが、日常的に夜はなんばをうろついていた。

ほとんど毎日朝帰りで、家にもまともに帰らなかった。

 

声を掛けてくる男性には

「うるせー!顔面見ろブス」

などと暴言を吐き、友人と一緒になってケラケラ笑っていたという。

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「あのまま夜遊びを続けていたら、いつか刺されていたかもしれない。

前田さんにはそれを気付かせてもらって、感謝しているんです」

 

山城さんはそう話してくれた。

 

 

ここまでお読みいただきましてありがとうございました。

 

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志月かなででした。

 

 


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カンレン

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