
※こちらは『友人にまつわる不思議な話1』の続きです。
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吉本さんと佐伯さんは幼い頃から大変仲が良く、中学では同じクラスだった。
一晩経った次の日の朝、
吉本さんはニュースで佐伯さんの自殺が取り上げられているのをぼんやりと見ていた。
なんでそれを見ていたのかは記憶にない。
ショックで休んだのか、親に休めと言われたのかもしれないが、記憶はあいまいだという。
佐伯さんのお通夜で吉本さんは、現実感がないままにお焼香をした。
すると、佐伯さんの母親がこういった。
「最後に顔を見てあげてください」
佐伯さんは後頭部から地面に激突したらしく、顔はきれいなままだという。
是非と言葉を重ねられて、吉本さんは佐伯さんと対面した。
(ああ、本当にきれいだ。こんなに顔がきれいなもんだんなあ……)
そして、吉本さんはぼんやりとしたままに帰宅した。
奇妙な現象が起きたのは、翌日の告別式を終えて、出棺する前のことだった。
目の前にある道路の真ん中に、もやもやと動く影のようなものが見えたのだ。
(なんだろう……あれ……)
太陽は真上にあり、吉本さんの影は後ろにあったので、自分の影ではないことは分かっていた。
周りにも人がいたが、その人たちには見えていないようだ。
吉本さんがじっと影を見ていると、それは次第に知らないおじいさんの顔や、犬の顔へ、
もやもやと何度も姿を変えながら動くではないか。
そして最後に佐伯さんの顔になり、パーンとはじけて消えてしまった。
その瞬間、吉本さんの左肩に激痛が走った。
(なんだ、これ……?肩こり?……無意識に力入ってたのかな)
その時は、特に何も思わなかったという。
数日が経った頃のことだ。
佐伯さんが亡くなった当日の、最後の足取りが耳に入った。
佐伯さんは塾へ行くと言って家を出て、本屋に立ち寄った。
その本屋の店長が、佐伯さんのことを見ていたのだ。
吉本さんいわく、佐伯さんはファッションやタレントに特別興味があるというわけではないが、
かといってオタクっぽいイメージはなかったので意外だったという。
店長の話によれば、彼はマクロスというアニメ作品のシナリオ本を熱心に読んでいたとそうだ。
どこを読んでいたかは分からないが、吉本さんの中では
「もうひとりじゃない」という言葉が脳裏にちらついたという。
それから二日三日たった夜のことだ。吉本さんは夜中にぱっと目を覚ました。
(行かなくちゃ)
吉本さんの中には強い衝動があった。
行かなくてはならない。
その思いだけが自分を支配しているようだった。
真夜中に玄関から出かけていくと家族が起きると思い、
二階の窓から壁越しに自転車を持ち出して、吉本さんは外に出た。
(あいつのところに、行かなくちゃ)
家から佐伯さんの家までは自転車で二十分ほどの距離だった。
どうして自分がこんなに突き動かされるのかよくわからなかったが、ただ、
行かなくてはいけないと思った。
佐伯さんの住んでいたマンションに到着した吉本さんは、彼の落下した現場に手を合わせることも
ないまま、現場である十階までエレベーターで上がった――のだろう。
ここでも記憶は非常にあいまいで、何を使って登ったかまでは覚えていないという。
吉本さんが、佐伯さんが飛び降りた十階の廊下へたどり着いた時のことだ。
ふっと下を見ると、マンションの下から、
何十本もの緑色の手が自分を引き込むかのように伸びてきているのが見えた。
(なんだ、これ……!?)
吉本さんは思わず後ずさりをしてエレベーターに乗り、彼の飛び降りた現場に向かった。
そこには、まだお線香や花束も置いてあった。
地面には煉瓦を敷き詰めたようになっており、吉本さんは彼の落下現場に手を合わせて帰宅した。
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(『友人にまつわる不思議な話3』に続く)
ここまでお読みいただきましてありがとうございました。
吉本さんの体験は、次が最終章になります。
どんな怪異を体験したのかは、続きをお読みいただけましたら幸いです。
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志月かなででした。
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