
三重出身のゆかりさんが2017年に体験した話だ。
---
ゆかりさんは当時、夫の転勤で奈良市に引っ越したばかりだった。
引っ越しがひと段落して、夕飯の買い出しに近所のスーパーに出かけた時のことだ。
ゆかりさんが越した奈良市には、有名な回転レストランがあった。
かつてバブルの時代に回転レストランとして一世を風靡したそれを、
ゆかりさんは以前から見てみたかったと話す。
「ねえ、いいでしょ?買い出しついでに見に行きましょ」
夫と二人でその施設を訪れたところ、なんとなく、
営業をしている廃墟のような印象を受けたという。
(まさに、バブル時代の遺産って感じね)
レストランを外から見て満足したゆかりさん夫婦は、
下に入っているスーパーで買い物をしていこうと、スーパー・Iに足を踏み入れた。
その瞬間、ゆかりさんはバランスを崩してしまった。
(うわっ……!?)
ゆかりさんは元々霊感があり、昔から、雰囲気が良くないなというところに行くと、
床がぶにょぶにょとしているように感じられるという。
平行感覚が狂ったような感じで、一歩入った瞬間から気持ちがわるいのだそうだ。
(何……これ……?)
ここには何かがある、そう確信したという。
しかし、近所にはほかに出かけていくスーパーもなかったため、
日用品の買い出しで訪れるうちに次第に慣れてしまったそうだ。
ゆかりさんは三重県に住んでいた時からパート勤めに出ていたのだが、引っ越し先の近くには、
その施設のほかにパート勤めが出来るような場所も見当たらなかった。
(家から近いし、……まあいっか)
ゆかりさんの新しい勤務先は、Iの一階にあるテナントの雑貨屋だった。
出勤初日のことだ。
ゆかりさんが施設から少し離れた従業員用の駐車場に車を停めて、従業員通路に向かって
歩いていると、祠があることに気がついた。
(あれ……なんでこんなところに……)
バックヤードの入り口にも、店舗裏の通路脇に盛り塩がしてある。
(ああ、やっぱり何かあるんだな)
興味を持ったゆかりさんが少し調べてみると、そこは飛鳥時代から奈良時代にかけての皇族である、
長屋王の邸宅跡地であったことが分かった。
長屋王は、藤原氏の策略により無実の罪を着せられ、一族もろとも自害した人物である。
Iが出来る前、その施設は別のデパート・Sであったのだが、Sの建設予定地から
約四万点の木簡と長屋王の邸宅跡が出土したことで、研究者は「史跡として残すべき」と提言した。
工事は続けられてSが完成、営業を開始したが、二〇〇〇年に倒産している。
その後Iの閉店が決まったとき、ゆかりさんはお客さんからこういわれたそうだ。
「長屋王の祟りで、潰れるんだろう?」
「女中がいっぱい殺されたらしいよ」
怖がりのスタッフが怪談話を集めていたこともあり、色々耳に入ったという。
ゆかりさんが勤務していた当時、雑貨屋の従業員用の休憩室兼倉庫ではこんなことがあった。
バックヤードを兼ねたような、お店の在庫が置いてある一畳ほどの狭い部屋だった。
奥に小さいテーブルがあるだけで、休憩をとる一人だけが軽くそこでおにぎりなどを
食べられるようになっている。
ある日、ゆかりさんが休憩していると、声が聴こえて来た。
ボソボソという声は、聞き取ろうとすればするほど小さくなっていく。
(気にしないようにしよう)
すると、また聞こえてくる。声の出どころである白い壁の向こうには何もない。
聴こえてくる声は、複数の女性がゆっくり喋るような、ざわざわした声だったという。
---
ゆかりさんはほかにも、こんな体験をしたと話す。
---
ある日ゴミ捨てをしていると、ドアが開いて人が入って来た。
従業員駐車場から店舗のバックヤードに入る際、正規の入口ではなく、
ゴミ捨て場に通じるドアから横着して店舗に入ることは、ゆかりさん自身にも覚えがあった。
「おはようございます」
ゆかりさんが声をかけた。すると、近くにいたバイト先の後輩が固まっているではないか。
「え……、ゆかりさん、誰に挨拶してるの」
ゆかりさんからすると確かにドアが開いて人が入って来たのだが、
それは他の人間には見えない人物だったらしい。
---
「歴史のある場所に建ててしまったから、そういうことが起こったのかもしれませんね」
とゆかりさんは話してくれた。
ここまでお読みいただきましてありがとうございました。
引き続き記事を執筆して参りますので、お手すきの際にでもお読みいただけましたら幸いです。
また、実話怪談があるよ!記事にしても良いよ!という方は、
お気軽に私のメールアドレス(roudokuradio★gmail.com ★は@に変えてくださいね)
までお寄せくださいませ。
その際箇条書きで構いませんので怪異体験のことを簡単に記してありますと大変助かります。
(何年前・どこで・こんなことがあった、など)
志月かなででした。
この記事を書いてくれた志月かなでさんのTwitterはこちら