
これは鳥谷さん(男性)の体験談である。
鳥谷さんは、昔からよく幽霊のようなものを見ることがあるという。
一番はじめの霊体験として、幼い頃、いとこの少年と遊んでいたときにこんなことがあった。
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帰省した先の祖父の家ではテレビゲームを出来ず、子どもは外で遊べと言われていたため、
幼い鳥谷さんはいとこと外に出た。
祖父の家がある場所は山間を無理やり崩した部分に家が建っているような土壌で、
遊ぶような場所もなかった。
あてもなくぶらぶらと歩いていくと、アスファルトで舗装された山道に、
石造りのお地蔵さんが六体並べられていた。
いずれも赤い頭巾をかぶっていたが、お供え物はされていなかった。
鳥谷さんはお地蔵さんが何体あるか数えて、何故ここにお地蔵さんがあるのかを
あとで祖父に聞いてみようと考え、指をさして数え始めた。
するといとこが帰ろうとしたのだ。
「何で帰っちゃうの」
鳥谷さんがそう聞くと、いとこはこう答えた。
「お前が何もないところを数えてて気持ち悪いから」
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鳥谷さんの体験は、一本を通して怪談という話というよりは、
このような日常の中にあるささやかな霊体験というものが多い。
いくつか紹介する。
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鳥谷さんが大人になったある日、
新宿の交差点で歩きながらタブレット端末を操作していた時のことだ。
(え……)
鳥谷さんは、視界の隅にちらりと見えたモノに思わず足を止めてしまった。
鳥谷さんがタブレット端末から目線をあげた先には、男性が一人いた。
男性は往来の邪魔にならないように道の端に寄って、疲れた表情を浮かべ、
俯きがちにタブレット端末を操作している。
それだけなら問題はない。奇妙なのは、その男性の背後のある存在だった。
男性の背後からは、大きな人間の顔が半分だけ、こちらを覗いていたという。
大首だ。
目が二つに口がひとつで、拡大した写真のようにぼやけた大きな顔だった。
多首の目線はうつろで、どこを見ているのかはわからず、髪の毛はない。
ぼんやりとした肌色の、170センチほどの顔。
タブレットを開いていた男性がタブレットを閉じて歩き出すと、その顔もスッと消えてしまった。
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鳥谷さんがあきる野市から、八王子にある実家のすぐ近くのアパートに引っ越した時は
こんなことがあった。
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家は大変古く、階段を上がってすぐの二階、201号室だった。
引っ越し当日の夕方頃のことだった。
力仕事に疲れた鳥谷さんは、一旦休憩しようとフローリングでゴロゴロと転がっていた。
すると視界におかしなものが見えた。
六畳の部屋からキッチンに続く曇りガラスの扉。
格子状に木の板で区切られたガラスの一番下の部分に、人の顔があったのだ。
(俺のほかに誰もいるはずがない……)
誰かが横になって転がっていたのだろうか。
鍵が掛かっているし、誰かが入ってくるわけはない……。
引っ越しの疲れで微睡んでいた鳥谷さんはそのまま眠ってしまった。
目を覚まして鳥谷さんがその扉をあけると、そこには詰まれた段ボールがあるだけだったという。
後日のことだ。
鳥谷さんがトイレを出たところで、台所に向かって俯いて立っている女の人がいた。
黒く長い髪に隠れて表情は良く見えない。
(やっぱりこの家、霊がいるのか……)
それから居住している間は、トイレの電気が勝手についたり、
勝手に鍵がかかったりしたというが、幼少期から霊体験が身近だった鳥谷さんには
慣れたものだったと聞いた。
その家には三年住んで、府中に引っ越したそうだ。
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ここまでお読みいただきましてありがとうございました。
鳥谷さんの怪談は他にもあるので、いつかまた紹介する機会がありましたら幸いです。
また、実話怪談があるよ!記事にしても良いよ!という方は、
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その際箇条書きで構いませんので怪異体験のことを簡単に記してありますと
大変助かります。(何年前・どこで・こんなことがあった、など)
志月かなででした。
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